《前回からのつづき》
そもそも急行形電車は、中長距離を移動する利用客を対象とした車両であり、乗降用扉は車両の両端に寄せられ、幅1,000mmの片開き引き戸が2か所とされ、乗降用扉の部分には客室との間に仕切り壁があるデッキが設置されていました。そして、客室内は中央部に通路を挟んで両側にはボックスシートが設置され、長距離を乗車する乗客ができるだけ快適に過ごすことを第一とした設計でした。
しかし、ずらりと並んだボックスシートは着席定員を多くしても、通路の部分は狭く立席定員は限られたものでした。この構造は都市圏におけるラッシュ時輸送には不利で、車内への収容定員が限られるために、ホームには乗り切れなかった利用客を取り残すことにもつながりました。また、短時間での乗降にも相当な困難がともない、高頻度運転で停車時間も限られているにも関わらず、乗降に時間がかかってしまい、結果として列車の遅延とダイヤの乱れを頻発させてしまうのでした。
そうはいっても、ラッシュ時の輸送に対応できる近郊形電車を新製することはできませんでした。国鉄の財政事情はすでに火の車どころか破綻に近い状態であり、そのような費用を捻出する余裕はどこにもありません。苦肉の策として、これら急行形電車のデッキに近い部分にあったボックスシートを撤去し、代わりにロングシートを設置、この部分に吊り革も追加して近郊型電車に近いレイアウトにする改造を施しました。これで、多少の乗車定員を増やすことはできましたが、乗降用扉が車端部にあることは変わりなく、一度に大勢の乗客が乗降をするのには不向きでした。

陸上交通の主役が鉄道だった頃、国鉄は数多くの優等列車を運行していた。特に急行列車は都市間輸送を担い、特急に次ぐ花形だった問い燃える。長距離を結ぶ多くの列車は長大編成を組むことが前提で、一等車(後にグリーン車)はもちろんのこと、半室ビュッフェ車も連結するなどしていた。しかし、急行列車の相次ぐ特急への格上げにより激減し、多くは余剰車となって普通列車の運用に格下げされていった。(©spaceaero2, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons)
また、不足する交直流両用の電車を補うため、あろうことか余剰となった寝台特急として使われていた581・583系を改造をして近郊形電車にしたのでした。そもそも特急形、それも寝台を備えた特異な車両を無理やり近郊形仕様にしたので、やはりラッシュ時の輸送、特に多くの乗客の乗降には難があり、切り札とはなり得なかったのです。
こうした厳しい状況を踏まえ、国鉄はできるだけ費用をかけずに交流区間のラッシュ時に対応でき、高頻度運転を実現する車両を製作することを決断します。
国鉄分割民営化を翌年に控えた1986年に、新たな近郊形電車として交直流両用の413系と、交流用の717系が登場しました。近郊形とはいっても、113系や415系のように乗降用扉を3ドアではなく、東北本線で実績のあった417系と同じ2ドアの車体をもったものでした。

顔こそ種車となった急行形車両とほぼ同じだが、その体裁は大きく変えられた。とはいえ、地方都市圏の輸送を担う主役として実態に合った設備は、ラッシュ時はもちろん日中の時間帯にも十分な能力をもったものとなった。実際に北陸本線で運用される413系に乗車して見ても、中央寄りに寄せた2ドアという構造は実態にぴったりと当てはまっていたと言える。写真は北陸新幹線の延伸工事が佳境を迎える富山駅を後にしていく413系。(413系B06編成 富山駅 2013年7月29日 筆者撮影)
もっとも、この413・717系はまったくの新製ではありませんでした。急行列車の特急格上げや削減によって余剰となった急行形電車を改造したもので、その多くを種車から流用したのでした。
台枠はもちろんのこと、主電動機や主制御器、さらに主変圧器と主変換器といった電装品のほとんどは種車となった455系や475系のものが使われました。また、台車といった走行装置、コンプレッサーなどの補機類、そして冷房装置にいたるまで、実に多くの機器類が種車のものでした。
これは、極力製作コストを抑えるために、国鉄が取った苦肉の策でした。
新製したのは車体で、近郊形電車としてラッシュ時にも対応できる構造のものでした。とはいえ、113系や415系のように、乗降用扉が3か所のものではなく、東北本線の仙台地区などで実績のある417系や広島地区の115系3000番台と同じ2か所のものとしました。これは、投入される線区の実態に合わせたものと考えられ、3扉を必要とするほどの混雑ではないため、2扉で対応できるととされたのでしょう。
もっとも、ただ2扉にしたのでは、種車となった急行形電車と変わりません。そこで、扉は車体中央部に寄せたものとなり、ラッシュ時における乗降時間をできるだけ短く済むようにしたとともに、比較的長い距離に乗車する傾向のある観光客にも配慮し、可能な限り着席定員を増やした、いわば地方幹線向けの仕様となったのです。
413・717系に搭載された主電動機は出力120kWのMT54形とされました。もっとも、種車がMT54形を搭載していた453・473系以降の車両は機器を流用しましたが、MT46形を搭載した451・471系を種車としたものについては、機器を統一して保守の手間を減らすことを目的に、MT54形を新たに搭載したのでした。
主制御器も種車のものを再利用しました。電動カム軸式のCS15系で、この組み合わせは種車となった交直流急行形電車の453・473系や455・475系、457系はもちろん、直流急行形電車の165系、そして直流近郊形電車である115系にも採用され、国鉄形電車では標準的なものの一つでした。そのため、種車の再利用だけでなく、廃車となった車両からの発生品や、保守用の予備品も使って413・717系に搭載されたのです。
その一方で新しくつくられた機器もありました。
交流20000Vの高圧電流を降圧させる主変圧器は、種車のものは使いませんでした。TM14形主変圧器に使われていた絶縁油には、毒性が強く発がん性物質でもあるポリ塩化ビフェニル、PCBが封入されていました。この絶縁油は変圧器にとって欠かすことのできないもので、高圧側の一次コイルと低圧側の二次コイルの間を電気的に絶縁、すなわち電流を遮断するために封入されるものなのです。
実は、この変圧器は私達の身近にとてもよくあるもので、電柱の上に灰色に塗られた筒状のものが取り付けてありますが、これも変圧器であり絶縁油を封入した油入変圧器の一つです。
この変圧器であるTM14形に封入されているPCBは、413・717系がつくられた当時はすでに製造も輸入も、そして使うことも禁じられたものでした。そのため、TM14形をそのまま使うことができなかったのです。そこで、TM14形の代わりにシリコン油を使ったTM20形主変圧器を新製して、413・717系に装備させました。
《次回へつづく》
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