旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

湯の街へ駆けた湘南特急──80系・153系・157系が紡いだ伊豆アクセスの歴史【16】

広告

15.153系老朽化と185系誕生:特急・急行兼用を目指した“最後の国鉄特急形”が生まれた理由(1980〜81年)

この記事をまとめると

1980年代に入り、長年伊豆方面を支えた153系は老朽化が進み、国鉄は急行「伊豆」と特急「あまぎ」を同時に置き換える新型車両を計画した。財政難の中で特急・急行・普通の兼用を求められ、1981年に185系が登場。広幅扉や転換クロスシートなど近郊形に近い設備を採用したが、特急としては格下感が指摘され、後の議論を呼ぶ存在となった。

 

《前回からのつづき》

 1959年に製造されて以来、長く走り続けてきた153系も、1980年代が近づく頃には老朽化が目立ち始めていました。後輩角でありながらも、その車体構造が仇になって一足先に姿を消していった157系の無き後も、153系は東京−伊豆方面を結ぶ列車の運用に充てられ、多くの観光客を運び続けていました。

 しかし、「東海形」の別名が示すように、東京−伊豆間の中距離列車だけでなく、東海道新幹線開業前は東海道本線の長距離列車に多く使われてきたことや、そもそも101系のシステムをほぼ踏襲したことや、常に高速で走行する過酷な運用が長く続いたこともあり、老朽化は避けられないものになっていました。

 こうしたことから、153系を代替えする新たな車両が求められることになります。

153系は157系とともに首都圏と湘南・伊豆を結ぶ優等列車の要として長きにわたって走り続けてきた。後からつくられた157系は、その特異な構造が仇になり老朽化を早めてしまい、結果、153系よりも先に淘汰されてしまった。157系亡き後も、その後継となった183系とともに東海道のレジェンドともいえた153系は、冷房化などの数々の改良を施されたものの、湘南・伊豆への輸送を支え続けてきたが、1980年代に入るとさすがに老朽化が目立っていた。まさに、満身創痍の歴戦の勇士と行ったところだったであろう。(©Shizutetsukikanshi, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons)

 

 これを受けて、国鉄は新たな車両への置き換えを計画しますが、この新型車両は急行「伊豆」と特急「あまぎ」の両方を置き換えることにしました。また、80系以来続けられている、優等列車用の車両が間合いに普通列車としても運用に入ることができる、マルチな車両が考えられました。

 1981年に国鉄が新たに設計した最後の特急形電車として登場したのが185系でした。

 185系は従来の特急形電車とは大きく異なる設計思想のもと、運用する地域の事情を可能な限り採り入れた車両でした。前述のとおり、当時の東海道本線は急行形といえども、間合いで普通列車の運用に入ることもありました。そのため、従来の特急形電車は乗降用扉の幅700mmでは混雑時の乗り降りに時間がかかり、ダイヤを乱しかねません。そこで、片側2か所に設けられた扉は1000mmの方開き戸とし、普通列車として運用するときの乗降に配慮したものでした。

 客室の設備も、従来の特急形の標準ともいえた回転式リクライニングシートではなく、117系などで実績のあった転換クロスシートを備えました。加えて側窓は固定窓ではなく、開閉可能な1段上昇式窓を2連1組とし、グリーン車のサロ185形だけは金色に着色されたアルミサッシを使った1段上昇式窓を1個ずつ独立した形で設置したのです。

 優等列車に使うことが前提だったため、乗降用扉の部分はデッキ付きでしたが、デッキと客室をつなぐ扉は、従来の手動式から新幹線車両で実績のあった、フットスイッチ式の自動扉になり、新しい時代にふさわしい設備を整えたのです。

 しかし、この客室の設備が後に特急列車として運用される車両として、相応しくないと槍玉に挙げられてしまうのでした。そもそも国鉄の特急列車はその名の通り、「特別」な急行列車という位置づけであり、乗車するためには急行よりも高価な特急料金を支払わなければなりません。値段が高い列車なのだから、列車の設備も相応に高級とまでは言わないものの、充実したものが求められました。特に国鉄の特急全盛期には、長距離を長時間走行する列車が多かったため、食堂車の連結も欠かすことができないとされました。普通車の座席は座り心地が良く、グリーン車までとは言わないまでも、リクライニングするのが当たり前とされたのです。

首都圏対湘南・伊豆方面の優等列車として使われていた153系が老朽化し、その後継としてつくられた185系は、全車の置換えとともに急行「伊豆」を特急へ格上げ、特急「あまぎ」を統合して新たな列車として「踊り子」として運転されることになる。しかし、185系は特急形でありながら広い乗降用扉、リクライニング機構のない転換クロスシートを設置したことで、「伊豆」から比べるとアップグレードされたものの、「あまぎ」から見ればダウングレードになり、利用者をはじめ安否両論になった。これは、間合で普通列車にも使うことを考慮した「欲張りな設計思想」のよるものだと考えられる。それでも、従来の特急形電車にはない斬新なデザインと塗装は注目を浴び、民営化後は座席を交換するなど更新工事を受けて名実ともに特急用にふさわしい車両に発展していった。(2020年11月24日 戸塚-大船 筆者撮影)

 

 しかし、185系は特急形を名乗りながらも、近郊形である117系や115系3000番台と同じ転換式クロスシートで、この座席ではリクライニング機能はありませんでした。また、側窓は従来の車両であれば固定されていたので、列車同士がすれ違うときの風圧でガタガタと揺れることは最小限に抑えられましたが、185系は開閉可能なサッシ窓だったため、すれ違い時の風圧で音を立てて揺れるといった現象が起こり、静粛性は比べ物にならないほど落ちてしまったのです。

 また、車体構造も183系や485系のような屋根を低めにし、断面は曲線の強いものではなく、急行形とほぼ同じ構造にしました。そのことにより、重心は従来の特急用と比べると高くなってしまい、曲線や分岐器を通過するときの揺れは大きくなってしまいました。しかし、収容力の面ではこちらのほうが有利になるので、国鉄はこちらを最優先と考えて設計したといえます。

 それでも、国鉄がこのような設備の面で劣るのを承知で、マルチプレイヤーになる車両をつくった理由として考えられるのが、財政面の厳しさでした。老朽化が激しい車両をいつまでも使い続けるのは、運用コストの面で不利に働くので、新しい車両に置き換えるのは避けることはできません。

 

《次回へつづく》

 

あわせてお読みいただきたい

blog.railroad-traveler.info

blog.railroad-traveler.info

blog.railroad-traveler.info

blog.railroad-traveler.info