2.否めない技術の劣化(1)
さて、2018年2月28日に「のぞみ34号」で運用されていた車両の台車を製造した川崎重工は、台車に製造ミスがあったと発表しました。台車を構成する台車枠の溶接部分から亀裂が入り折損しましたが、製造段階で溶接部分のバリを削る際に規定以上に削ったために強度が不足し、高速走行を繰り返すうちに亀裂が走ったというものです。
<前回までは>
blog.railroad-travelerinfo 金属加工をする上で溶接はなくてはならない加工技術です。溶接した箇所には当然ですがバリができます。言い換えれば溶接部分の膨らみです。この溶接バリを削るという工作は、仕上げのためによく行われるようですが、削った分だけ強度が減るのは当然のことです。
今回の折損した台車は、溶接バリを原則としては削ってはならないとされています。つまり、台枠を溶接したらその部分はそのままにしなければならないのです。しかし、ここで問題になるのは例外の存在です。台車枠の溶接部を削るときには、例外的に0.5mmまで削ることができるというものです。
0.5mmとは一般的なシャープペンシルの芯の太さです。ですから、削ったとしてもグラインダーでほんの僅かだけ削る程度になります。溶接部にできたバリの中でも尖った部分を取る程度しか削ってはならないのです。
©Dr.Yellow(Wikimediaより引用)
ところが、問題の台車枠はこの0.5mmを超えて最大で3.3mmも削ってしまい、当然ですが必要な強度も保てなくなってしまいました。本来ならあってはならない工作です。
では、なぜこのような適性でない工作が行われたのでしょう。
川崎重工の発表では、台車枠を製造した作業班の班長が部下に溶接部を削るように指示したとされています。そして、削ることができるとされている基準を作業班長は知っていたものの、実際に作業を行った部下はその基準を知らなかったということです。
基準を知らなければ、当然ですが削るときにその厚さまでは神経を遣うこともありません。バリを取って溶接部を綺麗に仕上げていこうとし、0.5mmを超えて削ったとしても不思議ではないでしょう。
もちろん、作業班長がひとりで溶接部を削っていくことは現実的ではないため、部下に実際の作業を任せるのはごく普通のことです。ただし、任せた作業に大してきちんとできているか、瑕疵はないかなどを確認するのが責任者の役割だと考えられます。また、作業を任せる時には、具体的にどのように作業をするのかを指示するのも責任者の役割です。
しかしながら、今回の問題では作業班長は部下に具体的な作業指示をせず、加えてできあがった台車枠を確認することなく、強度の不足した台車枠を製品として出荷してしまいました。
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もちろん、強度の不足した台車枠を出荷した作業班長だけに責任を問えるものではありません。実際に台車を使う鉄道事業者から、とにかく軽量にしたいという台車の仕様に対する無理な要求が、台車を設計するメーカーの技術者にのしかかり、それから発生する設計側からの無理な要求が積み重なって製造現場にしわ寄せがいき、最終的に現場責任者が現場の知恵と工夫で乗りきろうとしたと考えられます。
即ち、「とにかく軽くしよう」という今日の鉄道車両の設計思想が、このような無理を生んでいった遠因であるといえるでしょう。軽量にするためには、部品は非常に簡素な構造にならざるをえませんし、その強度も最小限度になる可能性があります。簡素な構造だからこそ、溶接部分の品質管理は厳重にしなければならないといえます。
こうした設計思想が悪いとはいえませんが、過度に拘ると思わぬミスや事故につながるということなのかも知れません。