旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

消えゆく「国鉄形」 痛勤ラッシュを支え続けて(12)

広告

歴史は繰り返す・・・後継の新型車両に追われて

 1970年代の終わり頃から叫ばれてきた国鉄の経営再建は、分割民営化という形で行われることが現実味を帯びてきた1980年代のはじめから半ば、103系電車が最初の仕事場にした主要路線に新たな通勤形電車が登場しました。
 101系電車とともにオレンジバーミリオンを身に纏って都心と東京西部を結んでいた中央線快速に、新しい技術を導入した201系電車がやってきました。201系電車は電機子チョッパ制御という電子回路をつかった新しい方式の電車で、電力回生ブレーキを使うことができます。


前回までは

blog.railroad-traveler.info


 電力回生ブレーキとは、電車がスピードを落とす時にモーターを発電機に変えて、発電する時に生じるモーターの抵抗力でスピードを落とし、同時に発電した電流を架線に戻すというものです。最近では、ハイブリッド自動車や電気自動車にも使われている技術です。
 できるだけ電気を使う量を減らすことができれば、それだけ運転する時のコストも下がります。莫大な赤字を抱え込んでいた国鉄にとっては、まさに夢のような(?)電車だったのです。
 国鉄の期待を背負って、中央快速線へと次々に登場します。最初は101系電車を置き換えていたのが、やがては103系電車もその対象になっていきました。そして、先輩格の101系電車よりも早い1983年に、103系電車は中央快速線から去って行きました。わずか10年で御役御免となってしまったのです。
 1982年からは中央総武緩行線にも201系電車が進出しはじめます。さらに翌年の1983年には、京阪神緩行線にも201系が登場し、103系電車は仕事場を追われて他の周辺部の路線へと転じていきました。

 

f:id:norichika583:20180721225355j:plain▲中央線快速には次世代の省エネ電車として開発・製造された201系電車が登場したことで、103系電車は101系電車共々置き換えの対象になった。103系電車が中央線快速で走り続けた期間は10年しかなく、103系電車が配置された路線の中でも短いものだった。(筆者撮影)

 

 さらに地下鉄へと直通運転をする常磐緩行線には、201系電車を地下鉄直通仕様にした203系電車も開発され、1982年から走り始めました。203系電車は同じ電機子チョッパ制御で電気の消費量も抑えることができますが、なんといっても国鉄としては久しぶりのアルミニウム合金の車体にしたことで、車両自体の重量も軽くなってさらに省エネ性が増しました。
 103系電車よりも消費する電力が少なく、ランニングコストを低く抑えることができる201系や203系電車電車は、まさに省エネ時代にふさわしい国鉄期待の次世代通勤形電車でした。ところが、そんな省エネ電車は一つだけ大きな弱点を抱えていました。それは、電機子チョッパ制御に使う大電流に耐えられるパワートランジスタが非常に高価だったため、製造するコストが103系電車よりも高くなってしまうことでした。国鉄としては、ランニングコストも抑えたいですが、新車をつくる時のイニシャルコストも下げなければならず、201系電車は国鉄の財政事情にあまりマッチしませんでした。
 そこで登場したのが 銀色の輝くステンレス車体を採用した205系電車です。
 205系電車はそれまでの国鉄電車とは大きな違いがありました。それは、軽量ステンレス構造で、しかもオールステンレス車でした。かつて国鉄ステンレス車体の車両を試作したことがありましたが、骨組みは従来の普通鋼で外板をステンレス鋼にしたセミステンレス車でした。しかも、ステンレス鋼は普通鋼に比べて値段が高かったので、僅かな試作車をつくっただけでした。
 205系電車は国鉄初のオールステンレス車です。値段は少々高くても、ステンレス車体にするメリットは十分にあったということでしょう。

 

f:id:norichika583:20180721225946j:plain国鉄も分割民営化が現実的になってきた頃、最後の通勤形電車として205系電車を開発し、山手線をはじめ京阪神緩行線などに投入した。前作201系電車は電力回生ブレーキを装備するなど省エネ性に優れた車両だったが、製造コストが高いために中央線快速などごく一部の路線に投じたのみだった。製造コストを軽減し、省エネ性も両立させた205系電車はオールステンレス車となり、民営化後も増備が続けられ103系電車の後を継ぐ標準形通勤電車となった。

 

 加えて新たに開発された「界磁添加励磁制御」は国鉄の伝統的な抵抗制御でありながら、「電力回生ブレーキ」を装備するという省エネに優れた車両でした。と書くと、あまりに専門的すぎてしまいますよね。
 電車はモーターに電流を流すことで動きますが、いきなり大きな電流を流してモーターをフル回転させようとすると、車体の重さがあって動かないどころかモーターは異常な発熱をして最悪の場合燃えてしまいます。そうならないように、最初は小さな電流を流して、モーターをゆっくりと動かしていきます。その電流を調節するために、パンタグラフとモーターの間には抵抗器という電気機器がつながっていますが、この抵抗器のつなぎ方を変えることで電流の大きさを調整するのです。ちょうど、乾電池とモーターの間に電流を消費する電球をつないでいるといったところでしょうか。