《前回からのつづき》
■小口急行貨物列車専用に活躍したワムフ100
国鉄時代の貨物列車は、何度も述べてきたように基本的には車扱貨物、すなわち貨車1両単位で貨物を引き受け、それを輸送していました。しかし、これでは大口の顧客しか使うことができないため、これよりも少ない貨物を輸送したい荷主にとっては使いづらい、あるいは使うことができない制度だったといえます。
道路が今のように整備がされておらず、自動車も発展していなかった時代、貨物や荷物を遠方まで運ぶ手段は鉄道が第一選択でした。もちろん、郵便による小包という方法もありましたが、これらは鉄道郵便局に集められて、そこから鉄道によって輸送していたことを考えると、やはり鉄道が長距離輸送の主役だったといえるでしょう。
こうした時代に、個人法人を問わず少量の荷物ないし貨物を送る方法として、国鉄は前者では荷物車による輸送を、後者は貨車による輸送サービスを提供していました。そして、荷物車による輸送は小荷物輸送とし、貨車による輸送はその取り扱う重量などによって小口貨物や宅扱貨物といった様々な制度を運用していました。
小荷物と小口貨物などは非常に似通った制度ですが、その違いとして
- 小荷物
荷姿:1個あたりの重量は30kgまで。大きさは2立方メートルまでで、これを超えるものは超過料金を収受
輸送申込:取扱は小荷物取扱駅で、原則として発送人が取扱駅に持ちこみ、荷受人が着駅で受け取る
輸送時間:荷物列車として運行されるので、受付日+1日、400kmごとに+1日かかるが、比較的輸送時間(日数)を特定しやすい。急行荷物列車や寝台特急を利用する場合は受付日の翌日に到着。ただし、この場合は急行荷物料金、特急荷物料金を別途収受。
集配:配達取扱駅に限って配達エリア内に配達することはできる。この場合、配達料金がかかる。これ以外は、原則として駅留となる。
- 小口貨物
荷姿:輸送単位は10kg単位で料金を設定
輸送申込:貨物取扱駅で、原則として荷主が発駅に持ち込み、荷受人が着駅で受け取る
輸送時間:通常の貨物列車と同様に、操車場での解結を繰り返しながら目的地に輸送するため、到着までの時間を特定しにくい
集配:荷主の請求によって、取扱駅から6km以内に限って集荷や配達をすることができるが、集配料金は別途に収受
- 宅扱貨物
荷姿:小口貨物よりもさらに少量の貨物。速達扱いとなる。
輸送申込:貨物取扱駅
輸送時間:輸送する列車が特定されていた(宅扱貨物列車、急行貨物列車)ため、通常の貨物輸送よりも輸送時間が短く、到着までの時間を特定しやすかった
集配:取扱駅から6km以内に限って、発送人の指定する場所に集荷し、荷受人のもとへ配達する。集配料金は無料
というように、主な方法だけ挙げても制度が複雑で、はたしてどの方法を使えば便利で安く送ることができるのかわかりにくいものだったといえます。しかも、小荷物は旅客局、小口貨物や宅扱貨物は貨物局と国鉄でも管轄が異なり、しかも料金体系も違うなど利用者からはどれを使えばよいのかわかりにくい制度でした。
もっとも、現代の宅配便のように、集荷と配達のサービスが付帯していて、かつ少量の輸送に向いているのは宅扱貨物であり、取扱駅から6km以内という制限はあったものの、比較的便利で安い運賃で運ぶことができたと考えられます。
余談ですが、すでに亡くなった筆者の父は、若い頃に会社で製作した部品か何かを新潟に急いで送らなければならなかったことがあり、隅田川駅に持ち込んだ経験があったことを話してくれました。隅田川駅は、今でこそコンテナ貨物専用の貨物駅ですが、当時は小荷物と小口貨物の両方を取り扱う一般駅でした(小荷物は旅客扱いであるため)。恐らくは、小口の物資輸送で運賃も比較的安かった小口貨物として、急行貨物列車に載せて輸送したのだと考えられますが、こうした需要は当時はあった一例と言えるでしょう。
1975年の隅田川駅。現在とは違って車扱貨物が中心であったため、コンテナホームは2面3線しかなく、有蓋車の貨物扱をする上屋の姿も見られる。小口貨物などは利用客が窓口で輸送申込をすると、ここに運ばれて有蓋車に積み込まれた。(出典:国土地理院空中写真サービスより作成)
隅田川駅の小口貨物ホームにおける荷捌きの様子。貨物の北の玄関口である隅田川駅は、東北、上信越方面に発送する多くの貨物を取り扱っていた。この写真からも、大小様々な形の少量貨物が積み上げられているのが分かる。ここでどの列車に載せるのかが分けられ、ホームに入ってきた有蓋車に積み込まれていくが、それには多くの人手が必要だった。中には米俵のようなものや、現代では宅配便で送るような小さなものまであることから、意外にも国鉄の貨物輸送は身近な存在だったのかもしれない。(パブリックドメイン)
さて、こうした特定の貨物輸送を担う専用の貨車として、古くはワキ1形が使われてきました。日本の貨物輸送は輸送単位が比較的小さめであることから、多くの貨車は2軸ボギー台車を装着した大型車よりも、積載荷重が15トン程度の小型の2軸車が好まれ、国鉄は数多くの車両を製作して用意し、多くの荷主に利用されていました。このことからも、大型車であるワキ1形は特異な存在であり、その使用目的も限定されていたことから、一定程度の数を揃えたといえます。
急行貨物列車には、ワキ1000形のほかにワム90000形やワム70000形、そしてワム60000形も運用に充てられた。これらの貨車には一般の運用と区別するために、黄かん色の帯を巻き、「急行」の文字も書かれていた。(ワム60000形66172号 三笠鉄道記念館 2011年7月28日 筆者撮影)
《次回へつづく》
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