5.鉄道の「公共交通機関」としての位置づけと鉄道事業者の負担
このように、鉄道は公共の交通機関と位置づけられてはいるものの、その維持や管理はもちろん、災害による復旧についても鉄道事業者自身によって行われることが原則となっています。
一方、道路はその管理者が国や地方自治体になっているので、維持管理や復旧などの費用は税金によって賄われているのに対し、鉄道は鉄道事業者が負担することになっています。
第三セクターのように鉄道事業者にそれを負担する体力がない場合、国や沿線自治体からの補助によって賄われることもありますが、費用負担では必ずしもスムーズに運ばないケースもあり、多くの課題があるといえるでしょう。
また、JRのように経営基盤が強固であっても、その路線が極端に利用の少ない赤字路線だった場合は、JRが復旧そのものに否定的な姿勢になるケースも見受けられるようになりました。
こうした被害の大きい路線は、普段から修繕のための投資を極端に控えてきたローカル線であることが多いのですが、やはり列車を走らせ続けるのであれば、車両だけではなく鉄道を構成する施設そのものにも投資が必要といえるでしょう。
古くなった施設をそのままにせず、一定の時期が来たら大規模修繕を行ったり、施設そのものを更新したりすることは、災害時に強い鉄道をつくるということにつながるといえます。
鉄道事業者がこうした投資をするためには、やはりその鉄道路線の経営が黒字であるなど、投資に見合う収益が上げることができなければ、どうしても二の足を踏んでしまうのは当然といえます。かつての国鉄のように公共企業体ではなく、多くは利潤を追求することが第一義の民間企業ですから当然といえば当然です。
そこで、国や沿線の自治体が、こうした老朽化した鉄道施設の大規模更新に必要な費用を補助し、災害で被害を受ける前に強固な施設へと替えることが必要だといえます。
予め施設を更新しておくことで、自然災害によって受ける被害も軽減できる可能性があるといえます。また、被害が軽微で済めば、復旧までにかかる時間や費用も少なくなる可能性もあるでしょう。
早期に復旧し、列車の運転が再開されることで、被災地域の復旧に必要な人や物資を運ぶことができますし、復旧の作業に携わる人員も鉄道以外に割くことも可能だといえます。さらに、地域の経済活動の再開も少しでも早くでき、物流が止まる期間も抑えられることが期待できます。
ローカル線のように収益が少ない路線でも、その地域にとって必要な鉄道とするのであれば、やはり平時からそうした対策を施し、必要な費用を国や沿線で負担することも、防災や減災という側面からも必要なものではないかと考えられます。
6.国・沿線自治体による防災・減災としての鉄道施設の再整備
最近、新東名高速道路の静岡区間146kmを暫定4車線から6車線へと増築することが発表されました。国の投資戦略の一環で、その費用は約900億円を見込んでいるとのことです。(そもそも、高速道路の車線を増やすことが「戦略的」であるというのも理解しがたいものがありますが)
しかしながら、筆者も何度か新東名高速道路を利用したことがありますが、この道路が6車線化しなければならないほど混雑しているとはあまり感じませんでした。むしろ、自動車の通行量もそこそこで、とても走りやすい道路でしたが、6車線化しなくても十分ではないかといえます。もっとも、将来的には6車線化を果たしてもいいかもしれませんが、何でもかんでも2020年までにこうした整備をすればいいというのでなないでしょう。
この約900億円は国の予算でまかなわれます。
その予算を、老朽化が激しい鉄道の施設再整備や、自然災害による被災予防に充てることは、通行量の少ない高速道路の整備よりも重要なインフラへの投資だと考えられます。
鉄道は鉄道事業者によって運営されているので、国家予算を投じることが難しいという指摘も考えられますが、高速道路も民営化されていることを考えると、この指摘は大きく矛盾するものだといえるでしょう。
近年の自然災害による鉄道の被害とその大きさ、そしてその被害によって起こる列車の長期運休、さらにそれに伴って発生する経済的損失を考慮すると喫緊の課題といってもいいでしょう。
いずれにしても、大都市部を除いて鉄道の施設は老朽化が進んでいます。
また、近年の豪雨といった異常気象に対応が困難な施設を多く抱えています。
鉄道を沿線住民の貴重な生活の足であるとするならば、災害によって長期の運休や廃線になる前に、強固な施設へと更新する必要があるといえます。そのためには、鉄道事業者だけが背負い込むのではなく、沿線自治体や国が一体になって施設の再整備を進めることが必要であり重要であるといえます。