旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

鉄道マン時代の回想録 常に最悪を想定して備える【3】

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《前回からのつづき》

 筆者が鉄道マンを辞してから、もう30年以上が経ってしまったので細かいことを思い出すことは難しいのですが、管理していた資材の中でも印象に残ったものもあります。夜間に動く貨物駅などの構内を照らす高圧水銀灯はとにかく種類が多かったのですが、中でも1000Wのものはとにかく大きくて、保管する場所に困ったものでした。

 意外なものにはペンキもありました。車両所や工場のようにあらゆる色のものを揃える必要はなかったのですが、黒色のペンキだけは欠かすことができませんでした。これは、主に信号保安設備の筐体に塗るもので、風雨にさらされることや、車両がブレーキをかけたときに飛び散る制輪子の粉がこびりついてしまうので、時間とともに錆色になってしまいます。そこで、検査などの時にこのペンキを使って塗り直し、あたかも新品のようにみせていたのでした。

 

昼間はあまり気にすることのない、構内を照らす照明は貨物駅にとっては欠かすことができない設備の一つ終える。日中はもちろんだが、夜通しコンテナなどの積み下ろしたり、貨車の入換作業をするので広い範囲を明るくする必要がある。そのため、鉄塔などに投光器が設置されているが、これらの設備の保守管理を電力区や電気区といった、電気設備を管理する現業機関の職員が担っていた。たった1個の電球が切れてもすぐに交換し、常に最良の状態を保つために、これらの現業機関には交換用の部品を保管していた。写真は武蔵野南線梶ヶ谷貨物ターミナル駅で、右側に鉄塔がありその上に設けられた台にはいくつかの高圧水銀灯がある。この鉄塔の高さは30mあり、たった1個の電球を交換するだけでもこれに上らなければならない。実際に、筆者もこの鉄塔に上った経験がある。奥には門形のガントリーと呼ばれるものがあり、ここにも投光器が設置されている。(梶ヶ谷貨物ターミナル駅 2012年8月2日 筆者撮影)

 

 このほかにも、管内の駅や区所では使われなくなっていたレールのサイズ(主に40N)に使う絶縁継目板や、同じ規格のものなのにどういうわけか違うものとして台帳登録されているものなどなど、あまりにも不思議で印象に残っているものもありました。

 そんな中に、電気転轍器もあります。

 電気転轍器のように、使う頻度はそれほど高いものではないものの、その単価は非常に高価なものも保有資材として常備しておかなければなりませんでした。当時、JRで使われていた電気転轍器は2種類あり、電気鎖錠器としての機能をもった信号保安設備としての機器であるNS形と、分岐器を電動化させた構造が比較的簡易なYS形でした。どちらも必ず1基ずつは保有していましたが、とにかく大きくて重いので、保管場所に苦労しました。

 とはいっても、これは常に備えておかなければならないとされる資材の一つなので、むやみに処分することは許されず、かといって倉庫の中に入れておくこともできないので、結局は雨ざらしの状態で保管しなければなりませんでした。

 ある夏の日、台風が直撃して大雨に見舞われたあと、新鶴見機関区から転轍器の不転換の障害が起きたと連絡がありました。このブログでもお話したことですが、夕方の退勤間際に起きた事故ですが、すぐに対応しなければなりません。電気区の職員だけでなく、施設区の職員もその対応に当たることになりました。

 当然、この不転換を起こした転轍器の故障原因を突き止めることから始まるのですが、軌間区の信号扱所からは、あろうことかこれが「水没した」と報告があったのです。この不転換を起こした転轍器が設置されていた場所は、新鶴見信号場から機関区へ入区した車両が西機待線へと入っていく進路上にあり、誤ってルートが開いていない方向への誤進入を防ぐためにNS形が使われていたのです。そのため、電気モーターだけでなく、中には信号制御用の回路も内蔵されているタイプなので、水没したと合ってはもはや使い物にならなくなっているのは、実物を見なくても用意に想像できました。

 筆者が務めていた施設・電気の詰め所はにわかに騒がしくなるとともに、信号を担当していた主任からは、すぐに予備のNS形転轍器があるのかと聞かれることになります。もちろん、当時の筆者はすぐに予備があることを伝えると、早速、これをトラックに乗せて出動となったのでした。

 こうして予備のNS形転轍器を現場に持っていき、水没して故障したものと交換をすることになりますが、現地へと出向く時間が1時間弱、そして交換に1時間程度の時間を擁しましたが、障害発生から2時間ほどで復旧に成功し、3時間ほどで帰区約3時間後には帰区することができました。

 

鉄道貨物輸送において、東日本と西日本の結節点ともいえる新鶴見の役割は重要で、信号場では多くの貨物列車が機関車の交換が行われている。そして、機関区は車両の検修や乗務員基地としての役割を担うが、それとともに付け替えられる機関車の折り返し点でもあるので、この構内のいずれかが故障などを起こしてしまうと、多くの列車が運転できなくなる。実際、台風によって写真右に見える乗務員宿泊所の裏手にある転轍器が水没し、約2時間に渡って機能が麻痺してしまった。操車場時代から全体的には平坦に見えても、もともとが水田地帯を近くにある山を削った土を使って埋め立てられているので、一部は僅かに凹んでいることから冠水に至ったと考えられる。(©Syced, CC0, via Wikimedia Commons)

 

 この時に使ったNS形電気転轍器は、区の保有資材として台帳に載っていたので、翌日には払出手続きをしなければなりません。緊急の出動では払出手続きは後回しになることもあるので、これを忘れると後で大事になってしまいます。

 翌日になって出勤すると、前日に保留しておいた転轍器の払い出しをしますが、手続きそのものは通常の資材と何ら変わりません。しかし、資材の多くは消耗品であるので、交換してきた物は廃棄物として処分し、払い出した分の補充は支社経理課を通して発注手続きをすれば済みますが、転轍器の場合はこれとは大きく異なるのです。

 

《次回へつづく》

 

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