《前回からのつづき》
EF65形500番代F形やEF66形には、10000系高速貨車を牽くための元空気だめ引き通し管や電磁自動空気ブレーキの引き通し線を装備しました。九州島内で運用されたED73形やED76形、東北地方で運用されたED75形にも同じような装備を追加して1000番台と区分された車両を製造しました。いわゆるP形と呼ばれるこれらの機関車はh、20系客車や10000系高速貨車を牽く運用に充てられたのです。
このように、貨車として初めて空気ばね台車を装着した10000系は、その能力を発揮するためには機関車を選ばなければならず、運用が煩雑になってしまうとともに、必要な車両を他の一般型とは別に揃えなかればならなかったのでした。
加えて、保守管理の面でも課題がありました。
一般の貨車は金属コイルばねを使った台車を装着していたので、空気配管はブレーキ系統のみで十分でした。そのため、検査などで工場に入場したとき、車体と台車を切り離す作業では、ブレーキ系統の配管のみを取り外せばよいので、作業工程も少なく済みます。そのことは、車両が入場している日数にも影響を及ぼし、最小限の日程で検査を完了させ、運用に戻すことができるのです。
10000系化車は100km/hで運転するため、台車には貨車として類を見ない枕ばねに空気ばねを使ったTR203形が装着された。また、ブレーキ装置も電磁自動空気ブレーキにすることで応答性を高めた一方、これを作動させるための電気回路を引き通す必要があった。前者は機関車から圧縮空気を貨車に送り込むことでばねを作動させたが、そのためには自動空気ブレーキ(BP管)の空気ホースの他に、元空気だめ管(MR管)のホースも連結させる必要があった。また、電気回路を接続するためのジャンパ連結器も連結させなければならないため、機関車との連結解放時には操車掛の作業が多くなった。そのため、10000系貨車を牽く機関車には、連結器にBP管とMR管を接続する空気管を設置し、これを確実に接続させるために密着自動連結器を装備していた。(EF65 520〔髙〕 碓氷峠鉄道文化むら 筆者撮影)
しかし、10000系の場合はこの他に台車の空気ばねに圧縮空気を送り込むための専用の配管も取り付けられていたため、これらの作業も必要でした。実際、筆者が小倉車両所勤務のときに、コキ10000形が全検で入場してきましたが、コキ50000形とは異なり、台車の切り離し作業は優に2倍近くの時間を必要としました。また、全検が完了したときも同じで、ブレーキ系統だけでなく台車系統にも空気管を接続させなければなりません。当然、確実に動作しているかを確認する試験もしますが、元空気だめ引き通しのホースから圧縮空気を送り込み、空気ばねが膨らんだり萎んだりする検査が必要でした。
EF65形500番台F形の連結器。通常の並形自動連結器ではなく、密着自動連結器を装備しているのが分かる。連結器の周囲4箇所には、BP管とMR管を接続するための空気管が配置されていた。加えて、連結器の基部には自動復心装置があり、通常の空気ホースやジャンパ連結器もあるなど、一般のEF65形と比べて多くの機器があり、非常にいかめしいものになっていた。もっとも、EF65形500番台F形は本命のEF66形が登場するまでの「つなぎ」であったため、これらをフルに使ったのはごく僅かな期間だった。EF66形も0番台はこのように連結器周りはいかめしいもので、近くで見ると共通しているものが多くあった。(EF65 520〔髙〕 碓氷峠鉄道文化むら 2025年5月4日 いずれも筆者撮影)
こうした、他の貨車とは異なる特殊な作業工程が必要であることから、それに対応した技術的な知識が検査を施行する検修職員に求められ、そのための教育訓練も必要でした。そのことを全国の国鉄工場の職員に施そうものなら膨大なコストがかかるだけでなく、お世辞にも労使関係がよいとはいえなかった国鉄では、特に安定した輸送力を確保することが絶対とされたであろうレサ10000形とレムフ10000形は、客車と同じ運用として若松客貨車区に配置して交番検査などを担当し、全般検査などの大規模検査は小倉工場が担当したほどでした。
貨車としては初の、そして異例の空気ばね台車を装着した10000系貨車は、国鉄の貨物輸送の改善に大いに貢献したものの、特殊装備であるが故の扱いと運用の難しさや、製造コストが一般の貨車に比べて高価であることから、1969年までに製造が打ち切られてしまいました。
また、貨客兼用として製造されたワキ8000形や、郵政省所有のパレット輸送専用郵便車であるスユ44形や、荷物車のスニ40形やスニ41形も、空気ばね台車であるTR203形を装着していましたが、これらは外観こそ有蓋車と同じでしたが客車として扱われたため、配置区所や運用がはっきりとしていることや、10000系貨車のような電磁自動空気ブレーキではなく応荷重装置付の自動空気ブレーキを装備していたため、特殊装備が少なかったこともあって、煩雑さはそれほど大きくなかったと考えられます。
このように、自動車輸送のトラックに標準装備となったエアサスは、鉄道車両の貨車にも空気ばね台車を装着することで、同様や振動の少ないエアサス車は存在していたことから、それは技術的には可能であると言えるのです。それとともに、技術的には可能であっても、運用や保守管理の面では少数勢力であるために煩雑であり、一般化することは難しいともいえるのでした。
《次回へつづく》
次回、この稿は6月8日に投稿予定です。
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