《前回からのつづき》
鉄道小荷物は鉄道の荷物車で輸送するのは当たり前として、郵便小包も輸送する距離が長くなると鉄道を使っていました。また、道路があまり整備されていない地域でも、鉄道を使って輸送していたのでした。そのため、国鉄は自前の荷物輸送のために荷物車を、郵便輸送のために郵政省の予算で製造した郵便車を運用し、言葉通り全国津々浦々に、荷物や郵便物を輸送する役割を担っていました。輸送網の末端部となるところで、荷物や郵便物の扱う量も少ないことから、専用の車両ではなく郵便・荷物合造車や座席車との合造車を用意して、これに充てていたのです。
そのため、どんなに閑散としたローカル線でも、客車であればオハユニ61形のような普通座席郵便・荷物合造車が、気動車であればキハユニ26形といった車両が用意され、少量の郵便・荷物輸送に活躍していたのです。

国鉄の手小荷物輸送は、列車が多く運行されている幹線はもちろんのこと、非電化の地方ローカル線に至るまで、全国津々浦々、いまで言うところの「ユニバーサルサービスとして提供されていた。とはいえ、、輸送量の少ない路線で荷物車だけど運行するのは合理的でないため、乗客が乗る座席車との合造車が多く作られて運用されていた。キハユニ26形のように、郵便室も備えた合造車もつくられ、ローカル線の郵便と手小荷物を運ぶ役割を担っていた。(©Rsa, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons)
その反対に、幹線では専用の車両が用意されていました。特に東海道・山陽線の輸送量は大きく、郵便車と荷物車だけで編成を組んだ専用の荷物列車が運行されていたほどです。しかも1編成中に何両もの荷物車や取扱便用の郵便車が連結されていたので、その輸送量を推し量ることができるものでした。
他方、地方幹線や幹線の中距離になると事情が異なります。合造車では扱う量が多くて捌ききれないが、専用の車両を何両も連結した列車を走らせるほどではないので、客車ではなく電車や気動車を普通列車や急行列車に併結する形で運用していました。
電車の場合、中央本線や房総各線がそれに当てはまるといえるでしょう。スカ色を身に纏ったクモユニ82形やクモニ83形が、いわゆる「山電」と呼ばれた中距離を走る普通列車に併結されていました。また、上越線ではクモニ143形やクモユ141形といった車両が、115系に連なって運用されていました。
気動車では、その多くが四国で運用されていました。キハ58系に属しながらも、郵政省が所有する私有車であるキユ28形が、その最たるものであるといえます。急行列車に併結され、四国内の郵便輸送で活躍していました。
その一方で、国鉄が保有する荷物車や郵便・荷物合造車はそのほとんどが、軽量車体をもち居住性に優れたキハ20系や、キハ58系に追われるようにして第一線から退いていったキハ10系やキハ55系、さらには80系電車に通じる湘南顔をもった、電気式気動車であるキハ44000系やキハ44100系からの改造車が充てられていました。

気動車が運用される路線は、基本的に幹線と比べると輸送量が少ない地方幹線や、末端の輸送を担うローカル線が主体だった。そのため、客車時代から郵便・荷物室の面積が小さい合造車が多くつくられて運用に充てられたが、動力近代化による無煙化とともに気動車への置き換えが進むと、国鉄は新車ではなく古くなって陳腐化した黎明期の気動車を改造してこれに充てた。特に、黎明期の気動車の多くは郵便荷物輸送に転用したため、その多くが改造された。湘南顔をもった電気式気動車であるキハ44000形を改造した、キハユニ15形もその一つだった。(©Olegushka, CC0, via Wikimedia Commons)
これらの改造によって登場した郵便・荷物合造車の気動車は、全線が非電化だった四国をはじめ、全国各地の非電化幹線を中心に運用されていましたが、その多くが車体サイズが小さい黎明期の車両を改造したため、時代が進むとともに陳腐化と老朽化は避けることができませんでした。
1970年代後半に入る頃には、国鉄の荷物輸送は減少に転じていたとはいえ、車両の老朽化はいかんともしがたいものがあり、これを代替する新たな郵便・荷物気動車が求められるようになります。
そこで、キハ10系などを種車に改造した車両を置き換えるために、新たに改造によって製作されたのが、キニ28形・キユニ28形とキニ58形だったのです。
■キユニ28形・キニ28形
1977年に老朽化が進んだ郵便・荷物気動車を置き換えるために、キユニ28形とキニ28形が製作されました。制作したといっても、この頃の国鉄の財政は赤字も赤字で、乗客が直接乗ることのない荷物車を新たにつくるなどという贅沢なことはほとんど不可能でした。
ちょうどこの頃は、急行が次々と特急へ格上げされていた時期で、485系やキハ181系などの特急形車両は不足していたのに対し、165系やキハ58系といった急行形車両は余剰が発生していました。
そこで国鉄は、可能な限り製造コストを抑えながら、老朽化した荷物気動車を置き換えることにし、改造によって賄うことにしたのでした。
種車となったのは、急行形気動車で最も数多く製造され、全国の非電化区間であればどこでも運用されていたキハ58系で、中でもエンジンを1基搭載したグリーン車であるキロ28形が選ばれました。これは、急行の特急格上げによってグリーン車の需要自体がなくなったことと、運転台のあるキハ58形やキハ28形は、そのまま普通列車に書く下げて運用できたため、もっとも使われなくなった、言い換えれば余剰車となったキロ28形が改造種種車に選ばれたのは当然の成り行きだったといえるでしょう。

キハ58系の一等車(後にグリーン車)として製造されたキロ28形は、当時の優等車両のトレンドでもあった、幅を広くとった2連式の一段下降窓が採用された。製造当初は冷房装置がなかったため、夏季などは頻繁に窓を開けて外気を取り入れて涼を取っていた。普通車であればガラス窓を上昇させて開けても、さしたる問題にはならなかった(国鉄自身が問題にしていなかった)。しかし、優等車両では直接乗客に風が当たるのは好ましくないと考えたのか、このような下降式窓が採用された。これにより、走行中に車内に風が入ってきても、直接乗客の顔などに当たることがないので、積極的に取り入れられたと考えられる。しかし、その構造のために雨水が開口部、それも窓の下辺から外板内部に侵入し、その底部に溜まった砂埃などを湿らせ続けた結果、その部分を腐食させてしまい車体寿命を短くしてしまった。(©Olegushka, CC0, via Wikimedia Commons)
種車となったキロ28形は、形式が示す通り一等座席気動車として製造され、後にモノクラス化によってグリーン車として運用されたため、二等座席は、後に普通車となったキハ58形などが固定ボックスシートを備えていたのに対し、リクライニングシートを備えていました。また、窓もバランサー付1段下降窓が設けられ、窓の大きさも普通車よりも広く取られていたので、車内は明るい印象をもてるようになっていました。グリーン車であるため、基本的には長大編成を組んだ列車の中間に連結されることから、キハ58系の中ではこのキロ28形だけが運転台のない中間車としての構造でした。
しかし、キロ28形がもっとも活躍できる急行が削減され、キハ58系自体がローカル運用に転用されると、運転台のない構造が災いして運用そのものを失っていってしまったのでした。前任であるキハ55系は、一等車であったキロ25形や一等・二等合造車のキロハ25形が運転台を備えていたため、ローカル運用に転用後は普通車に格下げされて営業運転に使われていたのとは対照的でした。
改造に際して、台枠はもちろんのこと、エンジンや液体変速機、そして台車などは種車のものを活用しました。その一方で、車体はグリーン車としての構造であることや、運転台がないため、これを改造することは非常に難しいと判断されました。
キロ28形は乗降用の扉が片側2か所、それも車端部に配置されていましたが、荷物車となると荷物の積卸には開口部の大きな両開き扉が必要です。しかもその位置は作業の効率化を図るために中央寄りに位置する必要があったので、その扉は活用できませんでした。また、側窓は2連の一段下降窓だったため、開口部が大きく取られていたことや、このタイプの窓は客席からの眺望も良く車内を明るくするメリットがあった反面、下降窓であるが故に雨水が窓部分から侵入してしまい、車体の裾部分を腐食させてしまう欠点がありました。
事実、同じ構造を採用したサロ153形や157系をはじめとした下降窓を設置した車両は、その多くが雨水が浸入したことによって車体裾部内側に水がたまり、経年とともに腐食が激しくなってしまい、157系に至っては早期に廃車になることを余儀なくされました。キロ28形もこうした腐食からは逃れることはできなかったと考えられ、腐食した車体を無理に改造をするのは得策ではありません。

一段下降窓を本格的に採用した157系電車は、日本を代表する観光地である日光への観光客、特に外国人の輸送を重点に置いた車両だった。形式名が示す通り、十位は「5」であるので急行形に分類されるものだが、前述のように観光客輸送に特化した特急形並の車両設備をもったことから、後に「特殊特急形」に分類された。しかし、一段下降窓は外観もすっきりし、しかも車内の乗客に直接風を当てることなく換気ができる反面、車体裾部に雨水をためてしまったことから、車体外板を腐食させてしまい、車両そのものの寿命を短くしてしまった。(©Shellparakeet, CC0, via Wikimedia Commons)
こうしたことから、新たにつくられる荷物気動車と郵便・荷物気動車は、新製した車体に載せ替えることにしました。キニ28形の車体の基本レイアウトは、従来の荷物気動車を踏襲した形とされました。片側2か所に、幅1800mm両開きの引き戸を設け、駅などで荷物の積卸作業を短時間で効率的にできるようされました。車内は他の荷物車と同様に、スノコ状の床面とし、荷扱人が重い荷物の移動をしやすいものにしました。また、後位側には乗務員用の扉を設け、この部分にはトイレと洗面所、これに使う水タンクを設置するとともに、荷扱専務車掌が執務に使う机と椅子、そして乗務員の休憩用に使う座席が設けられていました。
《次回へつづく》
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