旅メモ ~旅について思うがままに考える~

元鉄道マンの視点から、旅と交通について思うがままに考えたことを紹介します。

この1枚から 異色の前面を持った「分割編成」・東急1000系

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 いつも拙筆のブログをお読みいただき、ありがとうございます。

 世の中には時として、「他とは違う」ということがあります。鉄道車両ではあまり例を見ることはありませんが、時として「異端」と呼ばれる車両が登場することがあります。

 古くは国鉄のEF55やEF18といった機関車がよく知られています。全車は流線型の車体をもち、電気機関車でありながら転車台で方向転換が必要な形態でした。後者はそもそもが旅客用のEF58として製造されていたものの、戦後の経済混乱を収拾するためにGHQの施策で工場から出場を止められた状態になり、やむを得ず貨物用電機として落成したものです。

 国鉄という大所帯であるが故に、こうした異端車が少々あってもさほど気にしないようでした。経営的にはあまり芳しいものとはいえず、経済的にもコストのかかる存在でしかありません。

 一方、私鉄ではこうした異端車の存在を良しとしません。たった数両、ともすれば1両や2両しかない車両を運用し、維持し続けること自体がコストの増大を招く恐れがあるので、車両を新製する時にはこうした異端車をつくらないように細心の注意を払うといいます。

 

 ところが、時としてその「原則」にあてはまらないというか、意図して他とは異なる仕様の車両をつくることがあります。

 東急1000系は、東横線日比谷線直通運用に使用されている7000系と、目蒲線と池上線に残っている吊り掛け車である3000系を置き換えることを目的に、1988年から製造された18m級の車体をもった車両でした。

 先に登場して運用に就いていた9000系をベースにし、VVVFインバーター制御を採用し、軽量ステンレス車体と相俟って経済性に優れた車両でした。もちろん、この頃は標準装備として常識になっていた冷房装置をもち、接客サービスの向上にも貢献したのです。

 学校の帰りに、菊名駅でこの1000系が停車しているのを見ると、1本分遅くなるのを承知の上で、わざわざ乗り換えてまで乗ったものでした。

 新車独特の匂いはもちろんしましたが、何よりほぼ毎日のように乗っている8000系と比べて、冷房の利きがよいことと、ボルスタレス台車のおかげで乗り心地もよいことを理由に乗ったものでした。(ちなみに、9000系に乗っている時は乗り換えませんでした)

 東横線の1000系は営団地下鉄日比谷線に乗り入れる運用が基本でした。地下鉄に乗り入れることから、8両編成を組む1000系は貫通編成を組んでいました。つまり、1号車から8号車まで、すべて車内で通り抜けができたのです。

 ところが、1990年に奇妙な編成の1000系が東横線を走り始めたのです。

 その一端が、こちらの写真。なんと、同じ1000系でも前面の形状が大きく異なり、中間に組み入れることを前提としたデザインと機能を持っていたのです。

 

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 このデハ1312は、デハ1300形の一両ですが、この顔を持ったのはデハ1310とたったの2両。クハ1000形も1011と1013の2両だけだったので、合計で4両がこの前面になったのでした。

 たったの4両しか造られなかった、中央に貫通扉を持つ中間組み込みが可能な先頭車は、この編成を東横線目蒲線で兼用できることを目的としていたようでした。

 とはいえ、中間に運転台をもつ車両を組み込むことを嫌う東急電鉄としては、こうした車両をつくることは非常に珍しいこと。後年、田園都市線に乗り入れるようになった東武30000系にも、この中間に先頭車を組み込んだ編成が多く見られましたが、東急側はあまり快くは思っていなかったようで、後に50000系に置き換えられてしまいました。

 やがて、日比谷線直通運用が減ると、東横線の1000系にも余剰が出てきました。そこで、この分割編成ともいえる4両編成たちは、元住吉から奥沢に移って目蒲線での運用に就いたのです。もちろん、もともとが4両編成を基本にしていたので、特に大きな改造の必要もなかったのはいうまでもありません。

 

 ところで、この写真のデハ1312は、中央の貫通扉に幌をつけたままの姿です。緑色に塗られた旧型車であるデハ3450形なら幌つきというのも見かけましたが、ステンレス車ではこうした姿はあまり例がありませんでした。

 そして、よく見ると前面窓の両側には細い棒状のものが見えます。これは、地下鉄線内で使う無線のアンテナでした。これを装備したままということは、何らかの事情で東横線の運用を離れて目蒲線にやって来たのでしょう。

 

 後に、東横線から目蒲線に異動してきたあと、デハ1312は方向転換の上、蒲田方の先頭車へと組み替えられました。目黒方(五反田方)の先頭車として組まれているのわかります

 いずれにしても、所期の目的を十分に果たしている貴重な場面だったといえます。

 

 今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

 

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#東急電鉄 #私鉄の車両 #1000系 #目蒲線